和歌と俳句

浦上天主堂

茂吉
浦上天主堂 無元罪サンタマリアの殿堂 あるひは単純に 御堂とぞいふ

風邪の咳直ぐ聖堂の穹窿に昇る 誓子

麦秋の中なるが悲し聖廃墟 秋櫻子

堂崩れ麦秋の天藍ただよふ 秋櫻子

天使像くだけて初夏の蝶群れをり 秋櫻子

鐘楼落ち麦秋に鐘を残しける 秋櫻子

聖廃墟はるかなる火の畦焼ける 青畝

残壇にちらばる天使春の空 青畝

石塊として梅雨ぬるる天使と獣 多佳子

梅雨の廃壇石塊の黙天使の黙 多佳子

梅雨に広肩石のヨハネの顔欠けて 多佳子

石の聖者鬚缺け麦の穂は青く 青邨

石柱のいくつにも折れたんぽぽ黄 青邨

遺壁の寒さ腕失せ首失せなほ天使 楸邨

爆死幾万は一つの釦北風鳴る 楸邨

冬の鳩駈け平和像など形成れど 楸邨

雪の鳶破羽をおろす聖廃墟 不死男

雪はふる鼻をヨハネは失へり 不死男

遺壁あはれ千々に被る聖童子 不死男

二十六聖人殉教地

残菊や昇天の霊二十六 秋櫻子

天国の夕焼を見ずや地は枯れても 秋櫻子

霜に明け殉教の像はみな濡れぬ 秋櫻子