和歌と俳句

阿蘇

弓始め雪の大阿蘇真向に 月二郎

薺摘む頬にしたがへる雪の阿蘇 汀女

牧水
阿蘇の街道 大津の宿に 別れつる 役者の髪の 山ざくら花

土筆野や阿蘇を要に左右の山 月二郎

火の山の阿蘇のあら野に火かけたる 多佳子

駄馬つづく阿蘇街道の若葉かな 漱石

牧水
水無月や 日は空に死し 干乾びし 朱でいのほのほ 阿蘇静に燃ゆ

外輪山に立つ峰雲や阿蘇あらぬ 碧梧桐

梅雨雲やありとも見えぬ阿蘇を指す 月二郎

憲吉
あを芝の 外輪山より なだれたる 巖の谿ふかし 底の激湍川

憲吉
汽車みちの 下びにふかき 瀧おつる 阿蘇の火口P のぼり我がをり

憲吉
旅を来し 心はをどれ 阿蘇山の 青裾原に ひろく向ひて

憲吉
わが行ける 阿蘇の夏野の 郭公は とほき谷間に なほ鳴きのこる

噴煙へ馬ひきむけつ登山かな 爽雨

登山馬いなゝきよぎる牧場かな 爽雨

登山道いまは噴煙めざすのみ 爽雨

仰ぎよる温泉滝のにほふ涼みかな 爽雨

噴煙の映るに浸す白馬かな 爽雨

噴煙のいま濃し御する登山馬 爽雨

炎天の尾根につらなる放馬かな 爽雨

大阿蘇の波なす青野夜もあをき 多佳子

青草の草千里浜天さびし 多佳子

青牧に中岳霧を降ろし来る 多佳子

岩燕泥濘たぎち火口なり 多佳子

噴煙の熱風に身を纏かれたり 多佳子

阿蘇人と阿蘇をたたへてビール抜く 上村占魚

植ゑつけし阿蘇の棚田の苗ちさし 上村占魚

寄りゆけば寄り来夏野の牛と吾 多佳子

阿蘇古町昼しんかんと百日紅 汀女

牧水
むらむらと 中ぞら掩ふ 阿蘇山の けむりのなかに 泌む秋の日よ

牧水
樹間がくれ 見居れば阿蘇の 青烟は かすかにきえぬ 秋の遠空

牧水
秋の雲 青き白きが むら立ちて 山鳴つたへ 天馳するかな

牧水
山鳴に 馴れては月の 白き夜を やすらに眠る 肥の国人よ

牧水
ひれ伏して 地の底とほき 火を見ると 人の五つが 赤かりし面

牧水
麓野の 国にすまへる 万人を 軒に立たせて 阿蘇荒るるかな

牧水
風さやさや 裾野の秋の 樹にたちぬ 阿蘇の月夜の その大きさや

牧水
秋のそら うらぶれ雲は 霧のごと 阿蘇の火つつみ 凪ぎぬる日なり

阿蘇の月つつとはなれてとどまれり 月二郎

迢空
よすがなき心 あやぶくゆられゐつ。馬車たそがれて、町をはなれつ

迢空
つまづきの この石にしもあひけるよ。遠のぼり来て、阿蘇のたむけに

迢空
盆すぎて をどりつかふる里のあり。阿蘇の山家に、われもをどらむ

晶子
しろがねを 芒も延べぬ 千年の 頂の火に まがへんとして

晶子
阿蘇の阪 母の後より 行く子馬を 見て俄かにも 家の恋しき

晶子
初冬か 秋か知らねど おほらかに 阿蘇の煙を いだく空かな

牧水
阿蘇荒れの 日にかもあらめ うすうすと かすみのごとく 秋の山曇る

阿蘇の月つつとはなれてとどまれり 月二郎

萱負はずあそびゐるなり阿蘇の馬 青畝

おのが食む萱運びゐて阿蘇の馬 青畝

もろこしを食ぶる峠も阿蘇のうち 青畝

秋嶺の寝釈迦の頭胸足あり 青畝

牧水
停車場に おりたちて見る 真向ひの 冬枯山の 日のにほひかも

牧水
阿蘇が嶺の 五つのみねに とりどりに 雲かかりたり 登りつつ見れば

牧水
美しき 冬野なるかも 穂すすきの なびかふ下の 枯芝の色

牧水
枯野原 行きつつ見れば 野末なる 山のいで湯の 湯げむりは見ゆ

牧水
阿蘇が嶺に 白雪降りぬ 昨日こそ 登り来にしか 白雪降りぬ

晴れて遠く阿蘇がまともにまつしろ 山頭火

冬座敷ときどき阿蘇へ向ふ汽車 汀女

うき草のよする汀や阿蘇は雪 汀女

鳴り動む阿蘇にはあらず雪に荒る 誓子

風速器阿蘇荒天の雪に舞ふ 誓子

阿蘇の馬見慣れぬものを雪に負ふ 誓子

雪しろき高嶺はあれど阿蘇に侍す 誓子

阿蘇の雪今日も日は照りつづくなり 月二郎

雪嶺を連ねて阿蘇の火山系 誓子