和歌と俳句

種田山頭火

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新国道まつすぐに春の風

うららかにして腹がへつてゐる

送電塔に風がある雲雀のうた

裏口からたんぽぽにたんぽぽ

春風のお地蔵さんは無一物

春寒のシヤツのボタンを見つけてつけた

あたたかい雨の木の実のしづくする

草の芽、釣瓶縄をすげかへる

落ちる陽をまへににして虹の一すぢ

たまたま人くれば銭のこといふ春寒

梅はなごりの、椿さきつづき

椿おちてはういてただよふ

おもひつめては南天の実

春がきたぞよ啼く鳥啼かぬ鳥

椿またぽとりと地べたをいろどつた

も出てきたそこへ水ふく

眼白あんなに啼きかはし椿から椿

ここにふきのとうそこにふきのとう

ひつそりとしてぺんぺん草の花ざかり

笠もおちつかせてのうまさは

いつも空家のこぼれ菜の花

すこし寒い雨がふるお彼岸まゐり

触れて夜の花のつめたし

ここからがうちの山といふ木の芽

春風の鉢の子一つ

ゆんべの雨がたたへてゐる、春

ぬれて水くむ草の芽のなか

石垣の日向のふきのとうひらいてゐる

うららかな、なんでもないみち

林も春の雨と水音の二重奏

かろいつかれのあしもとのすみれぐさ

藁塚ならんでゐる雑草の春

あれこれ咲いて桜も咲いてゐる

工場のひびきも雨となつた芍薬の芽

ぬかるみ赤いのは落ちてゐる椿

春さむく針の目へ糸がとほらない

わらやねふけてぬくい雨のしづくする

お彼岸まゐりの、おばあさんは乳母車

春寒い鼠のいたづらのあと

たたきだされて雨はれる百合の芽である

はるも水があふれる木の芽

土のそじまの芽ぶいてきた雑草

山羊もめをとで鳴くうららかな日ざし

一つが鳴けばみんな鳴く春の野の牛

落ちては落ちては藪椿いつまでも咲く

春の野の汽鑵車がさかさまで走る

春風のアスフアルトをしく

山の椿のひらいては落ちる

いちりん挿しの椿いちりん

春山をのぼる下駄が割れて