和歌と俳句

種田山頭火

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 昭和七年

水音の、新年が来た

松のお寺のしぐれとなつて

遠く近く波音のしぐれてゐる

木の葉の笠に音たてて

鉄鉢の中へも霰

けふはにたたかれて

山寺の山柿のうれたまま

いつまで旅するの爪をきる

朝凪の島を二つおく

ふりかへる領巾振山はしぐれてゐる

冬曇の大釜の罅

すつかり剥げて布袋は笑ひつづけてゐる

冬雨石階をのぼるサンタマリヤ

もう転ぶまい道のたんぽぽ

ふるさとの山なみ見える雪ふる

雪の法衣の重うなる

土手草萌えて鼠も行つたり来たりする

春が来た法衣を洗ふ

湯壷から桜ふくらんだ

ゆつくり湯に浸り沈丁花

ふるさとは遠くして木の芽

サクラがさいてサクラがちつて踊子踊る

物乞ふとシクラメンのうつくしいこと

すみれたんぽぽさいてくれた

さくらが咲いて旅人である