和歌と俳句

中村汀女

8 9 10 11 12 13 14 15 16 17

激雷のその後青し北の海

青芝や棕櫚ふく風は別にあり

うかうかと団扇の風を貰ひゐし

玉蟲の何しるべくもなく死にし

梅雨の窓餌を欲る鳩が暗くする

滴りのしづくの伸びに刻消ゆる

風鈴の音に月明かき夜を重ね

カンヌ夕焼故国の山に似し山も

地中海夕焼も白き船も消え

湧く青銅古き大鉢に

阿蘇古町昼しんかんと百日紅

白牡丹暮色見ゆればよそよそし

短夜の栞忘れし頁かな

わが使ふの影が乱すもの

揚羽上り鳶舞ひ下りる若葉

光洩るその手の貰ひけり

日傘しなふ山の風かな避暑期去る

とび早寝あやしむ家もなし

つと逃げしの闇のみだれかな

夕顔に立ちてわが家の暮し見ゆ

ふるさとやかぼりかぼりと打つ水

郭公や霧また海を奪ふとき

噴水に月光しかとまじるとき

立ちてみないきいきと山の草