まがふなき港のありか一重帯
父思ふ縞の浴衣はなど悲し
羅に北の小窓の風貰ふ
山梔子の香が深き息うながしぬ
出湯しづか灯蟲も山に戻る刻
かがり火を加へ夏潮夜目に見す
昨日より今日影ひろげ青胡桃
夏に入る異国の便り短さよ
扇風機何も云はずに向けて去る
行きまじる軽羅の街は薔薇粧ふ
白蛾くる辞書の重さのわが窓に
南天の花につけても慕情かな
立葵憚るのみに人の門
熱帯魚閃き心いたむもの
濃あじさゐ扇をねたむ日なりけり
泊船のかくて残す灯夜光蟲
ささやきや銀扇の風遠ざけつ
昼顔やいつかひとりの道とれば
かへりみて牡丹くづるるにはかさよ
くちなしの香の間近なるピアノかな
構へあり一垂直の蜘蛛の囲も
筍に与ふ一打の指南かな
虹仰ぐとき相似たりをとめご等
朝帚初蝉の句のありなしに
秘めごとの如く使へる扇かな