和歌と俳句

中村汀女

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浴衣着てひとりの涼や真暗がり

立つや麦藁帽の庇より

真円き月と思へば夏祭

かたくなにめぐる灯蟲の輪のもとに

風鈴は行人にまた隣人に

樫若葉夏はじめての雲が湧き

涼風のひたと吹き曲ぐ帽のへり

衣更へて遠からねども橋ひとつ

滴りに見えゐし風も落ちにけり

さみだれに呼ばれて犬のかへりみる

冷し瓜揺れ別れたる噴き井かな

母の家立出づるより雲の峯

遠雷や泳ぎ子よりも低き辺に

旅遠き雲こそかかれ栗若葉

短夜の櫛一枚や旅衣

窓の風金魚は別に泳ぎ居り

やはらかに金魚は網にさからひぬ

棕梠の花また朝影の濃きところ

野茨や母は齢を日に重ね

麦秋の母をひとりの野の起伏

ふつふつと日傘のひまに泥地獄

枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ

夕蜘蛛のつつと下り来る迅さ見る

夏雲の湧きてさだまる心あり