和歌と俳句

中村汀女

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梅雨の戸をむげに男の子開けもして

物を煮て出て夕蟇の歩き居り

蟇歩く到りつく邊のある如く

雹馳する間に樹樹を置き石を置き

向日葵のひらきしままの雨期にあり

夜濯の更け来し水の澄みわたり

夜濯の汗もなき身を沐浴かな

筑紫野の代掻く馬の長尾かな

柿若葉老い給ふとはいふまじく

うたたねをわが許されて蜜柑咲く

子燕のさざめき誰も聞き流し

ほしいまま茂る木の間を親燕

出でて飛ぶ戸を母鎖さる

蚊帳青く母は座敷に臥床たぶ

たらちねの蚊帳の吊手の低きまま

枇杷熟れて錢こぼすほどバス揺れて

色深きふるさと人の日傘かな

炎天を歩けばそぞろ母に似る

大いなる五月雨傘の故里に

五月雨のくだつばかりに降るに恋ふ

麦舟の着きし舳のやさしけれ

水葱流る心はるばる来し如く

を逃るるさまに漕ぎ離れ

遊船をめぐりて水葱は流るべく