和歌と俳句

蚊帳

高く吊つて蚊帳新しき折目かな 鬼城

蚊帳の中に親いまは亡し月あがる 鬼城

山風の蚊帳吹きあぐるあはれさよ 石鼎

山の娘の風邪にこもれる蚊帳かな 石鼎

奥山に売られて古りし蚊帳かな 石鼎

蚊帳つりてさみしき杣が竈かな 石鼎

蚊帳たれて山の気となる樵夫かな 普羅

舟宿にどやと来て寝る蚊帳かな 月二郎

蚊帳青う寝覚めよき夜の稿つげり 山頭火

蚊帳そよと吹く風も眠気誘ふほど 山頭火

晶子
水色の蚊帳の縫目をうち見つつさびしと聞ける朝の雨かな

汽車も過ぐ月の田の面や蚊帳の外 石鼎

池にまだ朝日ささぬや蚊帳はづす 石鼎

蚊帳の中なる親と子に雨音せまる 山頭火

蚊帳吊りて草深く住み果つるかも 虚子

千樫
あかつきの障子あくれば海風に蚊帳浮きゆらぐ友も覚め居り

剪りさして毒花に睡る蚊帳かな 蛇笏

雨さやか蚊帳正しく我に垂る 汀女

蚊帳の月池に映りて見えてあり 花蓑

白蚊帳にかすみて寝れば我ほとけ 石鼎

ありなしの蚊帳の萌葱や月の宿 石鼎

大いなる蚊帳つつて門のやすらかに 石鼎

蚊の入りし声一筋や蚊帳の中 虚子

蚊帳の釣手を高くして僧と二人寝る 放哉

明易き戸ぼそのうちの蚊帳かな 石鼎

古蚊帳の月おもしろく寝まりけり 虚子

浅ましき昼の蚊帳を見せまじな 虚子