和歌と俳句

蚊帳

わが影の身を起したる蚊帳の裡 誓子

蚊の入りし病の蚊帳を吊りづめに 誓子

青蚊帳を静臥のときは城として 誓子

畳とも蚊帳ともつかぬ匂かな 杞陽

蚊帳を出て次の間に出てあかるさよ 杞陽

蚊帳吊つて外気の冷えにまどろめり 亞浪

踏み落す蚊帳をまた吊り笑ふなり 楸邨

蚊帳を出て蚊帳の暗さにおどろけり 誓子

風雲の月ほのじろき蚊帳かな 林火

あらん限りのもてなしの蚊帳吊りにけり 石鼎

蚊帳畳んで朝まだき別れ告げにけり 石鼎

眼鏡なき夫と話すや蚊帳のうち 波津女

よろめきて孤絶の蚊帳をつらんとす 波郷

一と夜さの蚊帳とはせざり妻と寝て 石鼎

蚊帳つらぬき日の出の柱燃えんとす 楸邨

蚊帳の燈を消せば家ぢゆう暗くなる 波津女

蚊帳青し人魚の如く病めりけり 朱鳥

病家族二つの蚊帳の高低に 波郷

青蚊帳の粗さつめたさ我家なる 多佳子

ねざめたるはだへひややか蚊帳の闇 蛇笏

赤児の欠伸蚊帳はヴェールのこまかさに 草田男

蚊帳は海色母をもつつむ子守歌 草田男

首出せば月が来てをり蚊帳の穴 楸邨

五尺の子蚊帳の月光抱へ寝し 静塔

血ぶくれの蚊を打つ蚊帳の白世界 三鬼

初蚊帳のこごしき旅寝はじまりぬ 爽雨

瀬ひびきの中に大蚊帳吊りあぐる 爽雨

蚊帳つるやかくてむかしの木挽町 万太郎

死火山の美貌あきらか蚊帳透きて 三鬼

松風に蚊帳配られて真白なり 波郷

山寺の下も山寺蚊帳灯る 青畝