遠きたよりはや誘蛾燈ともすらし
夕焼の臍までさすや昼寝ざめ
雲ながれ野は曼珠沙華咲く頃か
看とられつ障子を洗ふときも過ぐ
喉ふかく羽抜鶏なくただ一度
下駄履いておどろく露の山脈に
蜩の森の外には湧くものなし
嚥みこぼすミルクの端にゐし蟻よ
黴の中言葉となればもう古し
蚊帳つらぬき日の出の柱燃えんとす
月の出の一挙にあがり甍重し
夕焼の影その母の懐へ
裸寝の臍は望みて遥かなり
ビール吹くかつて波郷としかせりき
癒ゆるかな露の夕刊とりに立ち
税吏汗し教師金なし笑ひあふ
颱風や首ふりつづけピエロの目
緑蔭やXの根に眉あつめ
鰯雲鞴の息に鉄めざめ
石の蝶金色すべく没日まつ
沼の上の月は下弦に蛇つかひ
月明の石より墓を磨ぎいだす
ややはなやぐ夜寒の電報掌に
遠童曼珠沙華持つ身光りて
白鷺の入りて朝焼充ちにけり