和歌と俳句

加藤楸邨

遠きたよりはや誘蛾燈ともすらし

夕焼の臍までさすや昼寝ざめ

雲ながれ野は曼珠沙華咲く頃か

看とられつ障子を洗ふときも過ぐ

喉ふかく羽抜鶏なくただ一度

下駄履いておどろく露の山脈に

の森の外には湧くものなし

嚥みこぼすミルクの端にゐし蟻よ

の中言葉となればもう古し

蚊帳つらぬき日の出の柱燃えんとす

月の出の一挙にあがり甍重し

夕焼の影その母の懐へ

裸寝の臍は望みて遥かなり

ビール吹くかつて波郷としかせりき

癒ゆるかな露の夕刊とりに立ち

税吏汗し教師金なし笑ひあふ

颱風や首ふりつづけピエロの目

緑蔭やXの根に眉あつめ

鰯雲鞴の息に鉄めざめ

石の蝶金色すべく没日まつ

沼の上の月は下弦に蛇つかひ

月明の石より墓を磨ぎいだす

ややはなやぐ夜寒の電報掌に

遠童曼珠沙華持つ身光りて

白鷺の入りて朝焼充ちにけり