鉛筆で指さす露の山脈を
人に税帰燕は帰る国ありき
大いなる冬日を負ひぬ遺児として
月さして獣のごとく靴ならぶ
ひとり見る夜寒の闇に指を立て
鉄うつ音石の髄まで冬色に
火を点ず雪の降りゐる女の瞳
髪がありき瞳がありき帰燕過ぎたりき
雪降りつむ音なきものはつひにかなし
膨らむ風船遠山冬の相を帯び
馬は馬冬嶺は冬嶺傷痍者ゆく
一歩前に幸あるごとく田掻馬
冬の舗道を冬の波郷が近づき来
子が駈けて野分に白き足の裏
鉄めざむ野分の火の粉土をはしり
遠き汽車落葉は堅き土に着く
一燈を消せば雪ふる夜の国
雪ふりつむ紺にして書の手重りす
餅の膨らみ俄にはげし友来るか
鯉うごく秤ははねて冬嶺へ
雪ふりふる最後の一片たりえんと
ハンマー振る頭を雪に振り反らし
なほ焦土雪の鞦韆ひとりこぎ
河豚の面湧いて思ひ出かきみだれ