和歌と俳句

加藤楸邨

癒えしかなと雪解の中に我を置く

芹・野川おどろきやすき蝶のゐて

冬海の方へ寝かへる一息に

梅にたち癒ゆる全身に息満たす

塩買ひて春の雪嶺ちかかりき

にて落つるハンマー音おくれ

泣き寄る子喉の奥まで春日さす

春嶺の脈うつを蹴り起きあがる

踝にとどろきし雷熱さめゆく

梅雨の烏賊鱗光烏賊の形もて

夏暁の杭ゆきては水のひかるかな

玉巻く芭蕉病身反らすこと少なし

父の背に睡りて垂らすねこじやらし

異国米梅雨の炊煙伏しに伏す

すでに夏暁雲の中より雲噴きあげ

腹上に手拍子とるや春の雁

紫蘇青く遠嶺湧きたつ屋根の果

春の闇癒えゆく肋触らるる

病夫の名負ひをり花も過ぎんとし

咽ぶと憤ると冬の煙突さびしきかな

枯野来るときどき胸をゆりおこし

陽炎ひてもう痩せられぬ犬の肋

丹沢に向き生きえたる白息を

飛ばぬとき冬の鴎の白極まる

雪中の水音希ひはじむなり