和歌と俳句

緑陰

緑蔭に網を逃げたる蝶白し 虚子

緑蔭の海よりしづかなる憩ひ 風生

緑蔭の鶴を友とし四十路なり 鷹女

緑蔭にわれや一人の友もなく 鷹女

白雲を出る日仰ぎつ緑蔭に 草田男

緑蔭に上むき寝る子空広し 草田男

憩ひたるかの緑蔭の真黒に 誓子

緑蔭の石截るひびき繰りかへし 青畝

緑蔭の城址の粗密まのあたり 青畝

緑蔭より日向へ孤児の眼が二点 三鬼

緑蔭に刈落されし髪のこる 三鬼

父が呼ぶ緑蔭に入り眉ひらく 草田男

緑蔭に蟻の一日ながかりき 信子

子をもたぬ女のひけめ緑蔭に 信子

緑蔭のわが入るときに動くなり 耕衣

緑蔭に入るや遠くに他の緑 耕衣

緑蔭に馬の蹄の力みしあと 誓子

緑蔭に胃薬呑むこと憚らず 鷹女

緑蔭の天井に日の砕け散り たかし

幹高く大緑蔭を支へたり たかし

緑蔭に憩ふは遠く行かんため 波津女

尼の服黒し緑蔭を出ても尚ほ 不死男

緑蔭の道平らかに続きけり 虚子

緑蔭を襖のうしろにも感ず 風生

緑蔭やXの根に眉あつめ 楸邨

緑蔭を看護婦がゆき死神がゆく 波郷

緑蔭にして乞はれたる煙草の火 

夏蜜柑むき緑蔭は二人のもの 風生

緑蔭をやをら起つべき刻来る 風生

緑陰に臼造り居る男かな 石鼎

時計盤の光沢緑蔭の産屋なり 欣一