和歌と俳句

三橋鷹女

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梔子のあたり死神さまよへり

かたばみの花より淋し住みわかれ

ぼうたんを好めば帯にこの花を

一八の花のほとりに封を切る

千年の樗の花に棲み古りぬ

まだ散らずと誓子句集にも

出でて草田男句集径に読む

向日葵を剪るみほとけの花ならず

蕗を煮る母よ五月も束の間に

梧桐のはや夕焼を隠し得ず

きのふ見て旱や鉄線の花あらず

炎天へ蝶まつすぐにまつすぐに

帯売ると来て炎天をかなしめり

緑蔭に胃薬呑むこと憚らず

縋らむとして向日葵もかなしき花

一本のペンが懐剣や夏深く

紫蘇の香や哀しくなりし母の齢

夏草や父の墓石つねに小さく

つれなさの切なさの青唐辛子

百日紅われら初老のさわやかに

五十の手習百日紅の咲く間は

忍冬のこの色欲しや唇に

何事を告ぐるやの青惶と

うらかなしが天へ咲きのぼる

ねむり草眠らせてゐてやるせなし