和歌と俳句

沢木欣一

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枯芝に足袋穿き変える妻を待つ

鉄線にからみ豌豆花奢る

梅雨最中牝鶏汚れ投票日

妻妊む五月雪嶺ひたに恋い

妊りて梅雨の二階へ火を運ぶ

梅雨の旅女と子供湯屋に満ち

水が欲し天井照らすいなびかり

梅雨明けの潟の光りが街裏に

落ち梅が砂利に傷つく出勤路

眉濃ゆき妻の子太郎栗の花

バケツに百合煙草を買いに産屋より

時計盤の光沢緑蔭の産屋なり

産屋より菖蒲捨てある庭見下す

いなびかり見えざる瞳張り赤子泣く

向日葵大輪青田距てて人を呼ぶ

墓の前漁父がもたらす赤い花

日々戦報炎昼の街下痢つゞく

氷る谷間襁褓と青菜生きている

菠薐草土に喰い込み氷る谷

飛行音冬田の隅に鷄裂かれ

氷る沼常盤木光り枝交す

石垣ゆ藜が赤き舌垂らす

タイヤのみ新調農夫息白し

産後の額髪整うや雪来る

三等車神父めざめる谷の雪

初笑い玩具の犬に描きし髯

一望の雪嶺電車で街離る

勤めの疲れ雪の公園横切りて

落椿毛布身体の容に寝る

ドイツ語音読生毛の咽喉に赤ジャケツ

雪嶺晴れ畦の水仙風のなか

枯葦の茫々と艶雪解川

赤ん坊の掌より五月朝動く

破れガラス打つけの戸々「清き一票」

家探す薄暮無花果小指ほど

石山の裾の微風に花すみれ

赤ん坊に少年の相栗の花

夜勤の父待つ街裏に椎匂う

停戦ニュース鳴り出す風鈴寝顔の上

糊つよき白布たゝめば蟻こぼれ

七夕竹人の夕餉の覗かれる

二階の瞳とゞく地上の蘭の花

向日葵に金光発す三日月

汽関車の排気小石を鳴らす

青田露ひしめき車窓哺乳瓶

灼けるセメント脚桃色の雀跳ね

手を振りて別る晩夏の小汽船

舷側の西日の透きに能登青田

巌頭に船虫にげる猫のごと

やわらかな羊歯群に舳突入れる

鰯雲線路の下を水くぐる

真黒な小屋秋晴れへ旗突き出す

野分なか汽関車の掌が旗に応う

セルを着て兵臭の街怖れたり

炭運ぶ相似の父子金木犀

籾殻焼きおわりし黒き地の刻印

稲刈りに遅々たる歩み地上の群

寒燈が採鉱夫の影足下に置く

からたち垣埃かむりて犬急ぐ

書庫守に遠く冬日の崖の笹

冬の羊歯城に奢るや軍備論

歳晩の足場が解かれ銀行生る