和歌と俳句

富安風生

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青鬼灯かたちづくれるほほゑまし

百姓着ぬいで籐椅子にくつろぎぬ

子供鍬老に適ひて草削る

天龍のへりに椅子おく夕涼み

世の憂さのまとふ衣を更へにけり

夕浪の刻みそめたる涼を納る

玉の緒にすがりて耐ふる大暑かな

緑陰の海よりしづかなる憩ひ

麦の出来わろし夕焼美しく

榻二つ生きて濡れをる夏の雨

大船を引きすゑてある油照

人休み機械働く日の盛り

門の麦刈り伏せければ鯖火見ゆ

青鯖を女房が割く立葵

老鶯や珠のごとくに一湖あり

菖蒲湯に深く老躯を沈めけり

の双肩怒る衣紋竹

湖の雨の涼しき胡瓜揉

せはしげに安風鈴の鳴り通し

渓若葉二橋を架して二亭あり

蕗茂り一陶榻を没了す

蟻地獄額の日月古りにけり

目を落す水の浮葉も孤なり

展望の一舟一鳶五月富士

緑蔭を襖のうしろにも感ず

蟻地獄寂寞として飢ゑにけり

満山の緑の中の干し浴衣

妻ごめの古蚊帳たるむ顔の上

さからはず十薬をさへ茂らしむ

一生の楽しきころのソーダ水