夏山や我が母を嗣ぐ妻の袖
打坐の舌巌のごとし夏の風
母の居のうつばり思ふ翡翠かな
芦の香の汗したまひし老母かな
河童忌や小豆の蔓のもたれ合ひ
初夏や寿司巻く方に玉甍
月の出や印南野に苗余るらし
夏の雲槐の幹も寂びたりや
はつなつや女すくなき安田村
白薔薇剪り遣はすや胡瓜の上
行く水の横に衣を更へにけり
かたつむりつるめば肉の食ひ入るや
甘瓜やなほ歩かねば死ぬを得ず
夕凪の遂に女類となるを得ず
母の居に寄らじとしたる青薄
他の蟹を如何ともせず蟹暮るる
桐の花下を走るに老つつあり
刈る麦のすこしつめたし老いしかば
緑蔭のわが入るときに動くなり
緑蔭に入るや遠くに他の緑
雲の峰通行人として眺む
老顔として夕焼に染まるなり
ゆふぐれに蟻いつぴきも見落さず
年とつて行くや蓮の花盛り