和歌と俳句

永田耕衣

或る顔を鳴き捨て行くや時鳥

夏の人古池に足見られ死ぬ

寂しきは夏の海なり足二本

我が骨を思いつむれば

茄子生るや未だ未来に非ざるも

恋鶯の喉七月の氷かな

たつぷりと皆遠く在り夏の暮

花茄子や寂しき茄子は慰まむ

炎天を鉄鉢と為す茄子の花

初茄子や人から遠い時を行く

白蓮や顔ならば穴開いて居る

掴み捕りしては置き行く夏雀

蓮を剪る人に海山残るかな

老幹に言問う夏は来たりけり

咲くや浮木に浮木言い寄るを

来し方に戻らんと在り夏蜜柑

行方みな唐草文や夏の暮

晩夏また道が尋ねて来るおきな

家族いま人形の如し茗荷汁

金色に茗荷汁澄む地球かな

茗荷汁如何なる道を外したる

また来むと夏は終りぬ須磨の浦

藻の花や畏まらねば宜しけれ

空蝉や迷あらたなる川も在る