和歌と俳句

永田耕衣

水臭き夏野の石に腰かけぬ

蝸牛孫を抱きたる足で踏みぬ

滝に誘ひて昔遊びし友の禿頭

孫抱いて池の蓮から帰るかな

禿頭池の鯰に沿ひ歩き

梅雨に入りて細かに笑ふ鯰かな

別れたる互ひの跡は麦の秋

尿の出て身の存続す麦の秋

中空を鈴響き去る麦の秋

百合剪るや飛ぶ矢の如く静止して

野の石が笑ふや単衣なるわれを

今日迷ふ紅きの珠を累ね

半眼のままの芭蕉葉心に延べ

麦秋を俯向き通る故郷かな

佇ちなやむ人間といひあやめといひ

遠景を容れて緑蔭の悶ゆる

とその周りの空間葵が占む

蛍火を愛して口を開く人

新しき蛾を溺れしむ水の愛

流るる後ろの水に遅れつつ

麦藁を横切つて根は寂しき人

麦藁で牛を吹く人野の廣さ

蝸牛踏み潰す淡彩の人

明け白む蛍ごときに籠静か

死蛍に照らしをかけるかな