和歌と俳句

久保田万太郎

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げに今日や祭ばんてん祭足袋

けさもまた雨うとましや麦の秋

みじか夜の奇しきは人のさだめかな

わが老の業はねむれずあけやすき

白鳥のひく水尾梅雨に入りにけり

蚊帳つるやかくてむかしの木挽町

一雨にまた逃げられし簾かな

日の二時の木のかげやどす日除かな

夏果つる萎えいちはやき日除かな

何ごとも神さままかせ瀧に佇つ

一人猪口をふくみて夏の夕かな

割りばしをわるしづごころきうりもみ

日ざかりや簾かすめし蝶のかげ

揖斐川に波のかげなし日のさかり

睡蓮の葉と葉をうかす水とかな

夜の秋の月にさがりしすだれかな

夜の秋の月のひかりをとらへけり

何か世のはかなき夏のひかりかな

日に一度いたむ胃夏に入りにけり

矢ぐるまの音にも泪おつるかな

親一人あとにのこりしかな

つつましく扇つかへる涼しさよ

袴つけて羽織ただしく著て涼し

山の冷えいつか浴衣の肩にかな

水を打つすなはちさしてくる日かな

水打つやとべる子がへる孫がへる

鰺焼けてくるのを待つや冷奴

草の香におぼるる蝶や夏了る