和歌と俳句

久保田万太郎

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

はや梅雨に入りたる蓮の浮葉かな

雨の輪のふえくる蓮の浮葉かな

蕗の葉の日にあらがへる暑さかな

潮の音の来て鳴るすだれ吊りにけり

青すだれむかしむかしのはなしかな

波の音来てわが端居つつみけり

水打てと水吐いてゐる筧かな

夏潮の音よぶ雲の生れけり

帚目に熊手目に夏来りけり

大溝の水撒く夏に入りにけり

石段の雨瀧なせり更衣

人がらと芸と一つのかな

鯉幟牡丹ばたけにとほきかな

百合の葉の蟲みつけたる薄暑かな

伸びきはふ蔓のひかりの薄暑かな

まだ荒るる沖のあかるき薄暑かな

七時まだ日の落ちきらず柿若葉

麦刈るやまた一しきり通り雨

花菖蒲ただしく水にうつりけり

玉葱をつりても梅雨に入りにけり

梅雨の傘かたげしうしろすがたかな

ででむしにをりをり松の雫かな

よしきりや雨にぬれたるものばかり

ぬかあめに百合かたまりて濡るるかな

百合咲けるひかりのおよぶかぎりかな

干してある畳の裏や百合の花