和歌と俳句

久保田万太郎

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亡き人に肩叩かれぬ衣がへ

眠けまだ去らぬ目とぢぬ衣がへ

女房おかめ亭主ひよつとこ夏まつり

てつせんの紫くらきこのうれひ

ゆうれいにむだないろけのあけやすき

老鶯やいよいよ雨はくらけれど

老鶯に湯槽あふるる温泉なりけり

おもふさま散らかりし灯の涼しさよ

風鈴の舌ひらひらとまつりかな

晩涼やふと人声の来ては去り

晩涼や月いついでし立咄

朝月のうすれつくせし立夏かな

衣がへ看護づかれの見ゆるかな

銀行のマッチもメモも薄暑かな

夕かげのにはかに冷ゆる黄薔薇かな

六月や寝ざめかすめし鳩のかげ

花菖蒲まづむらさきのほぐれたる

あけがらすみじか夜ないてすぎしかな

明易やカーテンの襞まづ生きて

ねがへりのらくにうてたるかな

さらさらと夜のものかるき蛍かな

それとなき病のすすみ風薫る

羽抜鳥のこの身の末をみよとこそ

単帯看護づかれの見ゆるかな

百合白し余生をいかに送るべき