杢太郎いま亡き五月来りけり
川上のはやくも灯る五月かな
しまひまで焼けのこりたる菖蒲葺く
松風の夏めく庵を追はれけり
セル著れば風なまめけりおのづから
街道のしばらく海に祭かな
芍薬の一夜のつぼみほぐれけり
麦の秋さもなき雨にぬれにけり
麦熟るる風の舟橋わたりけり
短夜のあけゆく水の匂かな
短夜や鏡にかけし覆の紋
ひとりむしいかなる明日の来るならむ
ひとりむしにくしといふにあらねども
うとうとと眠りては覚むひとりむし
浅草の焼けあと吹ける南風かな
身のほどを知る夏羽織著たりけり
単帯かくまで胸のほそりけり
百合一ついのちのかぎり咲けりけり
汗の目に入りたる泪おさへけり
夏の夜のふくるすべなくあけにけり
雲のわく山目のまへに氷店
夏痩やひくめにしめし帯のまた
はや夏に入りたる波の高さかな
眠りたる間に風いでし五月かな
えにしだの黄にむせびたる五月かな