和歌と俳句

久保田万太郎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

灯りて青葉蒸す香の夏に入る

雨の牡丹佛にきりてきたりけり

着て袂にたすきうつしけり

露地の雨葺きたる菖蒲ぬらしふる

俄雨やみたる菖蒲葺きにけり

足あげてゐる飾り馬かざりけり

釣堀の空に立ちそめ鯉幟

ブルニエにリッツに薄暑いたりけり

単物著てエプロンに透き見ゆる

月見草無理な小言をいはれけり

月見草ささげ改札口いで来

仲見世にすでに片蔭できてゐる

どこまでも眞ッ直に行き牡丹園

なにもかも夏めく影を落すかな

ふく風もまつり間近くこのあたり

梅雨の草空の光に縋りけり

梅雨の屋根沖の光を返しけり

楡芽ぶき薄暑の雲のはやうかび

浴衣著てうちはを下げて用ありげ

草笛をふいて神田の生れかな

あやめ咲く汀のみたき遠まはり

短夜の水にうく灯のそれぞれよ

みじか夜やおもはぬ方にうらばしご

短夜や水をかづきて石たひら

海のかたへ消えてゆきたるかな