投げかへす扇ひかりて五月かな
更衣食のほそりはいはずけり
せきれいの目にもとまらずよ若葉風
風きよし薔薇咲くとよりほぐれそめ
星わかし薔薇のつぼみの一つづつ
湯の川のみじか夜あけし疾きながれ
あけ易や岩つばめとび河鹿鳴き
梅雨小袖昔八丈梅雨なれや
月つひに落ちてしまひし端居かな
夏浅き女の一人ぐらしかな
なささうであるのが苦労はつ袷
セルむかし、勇、白秋、杢太郎
セルの肩 月のひかりにこたへけり
セルとネル著たる狐と狸かな
どぜうやの大きな猪口や夏祭
たけのこ煮、そらまめうでて、さてそこで
薄暮、微雨、而して薔薇しろきかな
バラ展のばらにうもれしいとまかな
麦秋やひとりむすめを嫁にやり
あぢさゐやすだれのすそをぬらす雨
よろこびは梅雨の懐中汁粉かな
鮎焼きしあとの火の香の残りけり
薫風やすこしのびたる蕎麦啜り
とめどなきのぞみの瀧の落つるかな
因縁のそれからそれと涼しけれ
一生の悔いのいまさら夕端居
一生を悔いてせんなき端居かな