いまさら春愁緑の旗の曖昧味
遠足ややつれし顔が真赤な師
母性ネットリ春日むさぼる緋のペンキ
花薺片々多忙にすぎゆく日
一匙一匙コーヒー飲む吾子間町燕
真夜を跳ぶいとどの音にあるしめり
細くひろく眼ひらき薄暑の芭蕉像
呼吸して居りし芭蕉が書きし字薄暑の気
花冠多々裏濃に薔薇の褪せ初めぬ
花棕櫚やなごむ余地なき一倒心
身一つふかく裂けつつ一飛燕
涅槃風廃墟にできし砂の類
葭切や建てつつ窓を備へつつ
ペダルからぬげし紅下駄村若葉
時計屋に指環赤玉村若葉
朴咲く山家ラヂオ平地の声をして
老紫雲英生路そのまま戻り路
銅像の片手の巻物万愚節
蚊帳は海色母をもつつむ子守歌
吾子の呼気をかおる吸気に共昼寝
埃一過に女の香あり夏の盛り
盆の路傍水銀色に舞ふをみな
豆腐ゆらゆら買ひ去る嫗夏の月
氷食ふやバスのステップすぐそこに
幼きをみな蜩どきの縞模様