和歌と俳句

中村草田男

母郷行

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埋葬行夜の白服に白釦

西へゆく白鷺なれや車窓ぞひ

白鷺の羽搏ちや呼ぶごと拒むごと

青田白鷺市女笠めく墳一つ

寺清水もつれ流れて末濁らず

露の鐘鳴るとき母よ子を信ぜよ

国の勢ひは山々へ退き

羊歯多き林泉白雨突如せはし

夏花買ふ幻住庵址に紅点ぜん

青田段丘山墓詣りの道に似て

畦豆しげり行く径いよいよ嶮しうれし

雀逃げ宿かし鳥は夏天来る

我が供華真赤椎落葉から藪柑子

椎夏木片ひろがりのその下虚し

椎夏木仰ぎて独り胸さわぎ

父母既になくて頼みし椎夏木

頼まれし身が慕ふさま椎夏木

松根太くも椎根細くも露さまざま

澄むことに一生を懸けし人の泉

諸手さし入れにうなづき水握る

船よりのたけき玉歩の址夏草

汝が故郷とく見よとてや西日展ぶ

夜目に故郷の土の白さよ暑さ厚く

蛍火や遺骨の重さやや手慣れ

遺骨の窓過ぎゆく団扇国言葉