撫子や濡れて小さき墓の膝
大阪の帰燕仰げば旅の声
蝉わめく山々や世は揺れ移る
夾竹桃の空ぞ出自に復元せる
夾竹桃踊るよ無風の齢となりそ
日盛りの中空が濃し空の胸
一半永失一半成就す夏の月
古庭にさも定まりて蟻の道
海からの煙のにほひきりぎりす
錆びし銀船晩夏の東京港にごる
睡蓮点々主情の人の背高く
睡蓮沿ふ山路ゆきつつ文字つづる
西瓜赤し山骨南面雨乾く
野の町に古樹は根深し氷食ふ
多岐亡羊母情悼めよ百日紅
秋天一碧潜水者のごと目をみひらく
秋親し紺の法被の襟字さへ
瓢箪や大張り小張り赤児の声
二重虹末子に永く添ひゆかな
虹の心うすらぎ濃くなり父の心
亡母の薔薇開きぬ紅唇打ち
亡母の薔薇光の中はさびしきかな
くつわ虫のメカニズムの辺を行き過ぎぬ
夜天に虹見得るは不幸くつわ虫