和歌と俳句

中村草田男

母郷行

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みづから青き水傲慢や烏瓜

頂髪欠けて鬢髪ゆらぐの晴

曼珠沙華「末期の眼」こそ燃ゆる筈を

大人すげなく子供しつこしの金

茶の花や竹の枝靡きてすぐ復る

状受けに秋日すべらす状斜め

秋水や文字刷る音は息せき切り

秋水一枚新聞大葉妻拡ぐ

月の面平ら吾子満ち満つる月の頬

孤児肘を挙げぬ返しの寒風

寒風に孤児なに物もなきところ

岡持の中ぬくからん枯欅

状出しに出れば寒げの人五三

魚の肌主婦の生肌夕冷えて

臼いただきに白餅成りて妻潔し

行く年やヨルダン受洗主あやに若し

「貧者の一燈」こごえ育てる生命の義

よろしき代の冬日の場末歩き得たし

歌留多散らばり今さら蔵書とぼしさよ

初日差月桂樹越し軒端しのぎ

南へ歩むよさながら日向ぼこ

枯芝瞭然おもてもうらも愚かな碑

炬燵さめて我家に男の世界一つ

勝ち負けのみ誇なき世や雪ちらつく