和歌と俳句

中村草田男

母郷行

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峡の青星ラムネの玉を友と鳴らす

前巒きはやか朝曇さへ青を帯び

朝ぐもり芸する峡の日本犬

岩壁すずし蓑負ふ人と羽根負ふ鳥

源の方より朝日よろこぶ

碧山白水額の花には「飾り花」

望む塀の低さよ座の高さよ

踊の輪に入らむとならず立ち出でぬ

踊の灯北斗星さへみな消えて

踊りが歌ふ「かはらぬものは空の青」

後姿踊りつつ去る追はんとす

踊去るよわが母不言つてただ逝きて

踊見送りさぐれば千切れて柳の葉

うらみとは踊も歌もすぎゆくもの

踊散じて児の瞳の黒き乳母車

遠山で法螺の貝鳴り江は日盛

四つの我も十九ちがひの母も昼寝

日盛の江の対岸の乳房二つ

艪の音なし日盛り母の声もなし

詩人を生みし母の運命を蟹かなしむ

沖つ帆へむかひて盆の供物流る

ゆくりなく盆の果て日の子規に詣づ

子規の墓西日小学校舎越

藍に白を点じぬ城ある鰯雲

城庇やや散状に夏日直下