和歌と俳句

中村草田男

母郷行

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城ある夏山下る離郷の足いつさん

白塗りの鎖もすずし帰路の船

海上半月父母夏の陸にねむる

天竜奔る僅かな片陰だにすらも

炎天奔流何に留意のひまもなく

天竜の日洩れ片陰息づきぬ

朝乙女花崗岩掃く腋すずし

清水溢れて足跡の泥の上を走す

水も寝るか夕べの清水杭巻く

夕焼一筋なにに身を尽す澪標

青無花果母居ぬ町に這入りけり

母居ぬ町に手受けて中元広告紙

月は雲に抗ひ蝙蝠ただに飛ぶ

八月尽己を食ひ次ぎ己ひもじ

秋刀魚青銀妊婦財布の紐解きつつ

石燈籠に倚る対岸を秋の馬

金木犀妻を置き来て友訪ひ居り

踵揃へて上げ下げ語る蕎麦の花

詩念払ひて細事為さんと蕎麦の花

枝葉に通ふ香の無花果を食べて自愛

秋風や鋭き羽根はやせしに似て

高台へ名残惜しげに秋日落つ

秋日沈める深さや木場の木がそそり

石塀を縄ではたく児冬迫る

祈りの身もだえ金木犀に頭を突入れ