城ある夏山下る離郷の足いつさん
白塗りの鎖もすずし帰路の船
海上半月父母夏の陸にねむる
天竜奔る僅かな片陰だにすらも
炎天奔流何に留意のひまもなく
天竜の日洩れ片陰息づきぬ
朝乙女花崗岩掃く腋すずし
清水溢れて足跡の泥の上を走す
水も寝るか夕べの清水杭巻く
夕焼一筋なにに身を尽す澪標
青無花果母居ぬ町に這入りけり
母居ぬ町に手受けて中元広告紙
月は雲に抗ひ蝙蝠ただに飛ぶ
八月尽己を食ひ次ぎ己ひもじ
秋刀魚青銀妊婦財布の紐解きつつ
石燈籠に倚る対岸を秋の馬
金木犀妻を置き来て友訪ひ居り
踵揃へて上げ下げ語る蕎麦の花
詩念払ひて細事為さんと蕎麦の花
枝葉に通ふ香の無花果を食べて自愛
秋風や鋭き羽根はやせしに似て
高台へ名残惜しげに秋日落つ
秋日沈める深さや木場の木がそそり
石塀を縄ではたく児冬迫る
祈りの身もだえ金木犀に頭を突入れ