和歌と俳句

松山

後拾遺集・別 中納言定頼
松山の松のうら風吹きよせばひろひてしのべこひわすれ貝

松山の涙は海に深くなりて蓮の池に入れよとぞ思ふ

西行
松山の波に流れて来し舟のやがて空しくなりにけるかな

西行
松山の波の気色は変らじを形なく君はなりましにけり

西行
よしや君昔の玉の床とてもかからん後は何にかはせん


門しめに出て聞てゐるかな 子規

姉が織り妹が縫ふて更衣 子規

名月や伊予の松山一万戸 子規

掛乞の大街道となりにけり 子規

寒梅や的場あたりは田舎めく 子規

春や昔十五万石の城下哉 子規

故郷はいとこの多し桃の花 子規

夏の月提灯多きちまた哉 子規

我を迎ふ旧山河雪を装へり 虚子

ふるさとの月の港をよぎるのみ 虚子

おちついて死ねそうな草萌ゆる 山頭火

道のべに阿波の遍路の墓あはれ 虚子

貝寄風に乗りて帰郷の船迅し 草田男

夕桜城の石崖裾濃なる 草田男

春山にかの襞は斯くありしかな 草田男

ひたすらに祖先の墓を拝みけり 虚子

詣るにも小さき墓のなつかしく 虚子

小さき墓その世のさまを伏し拝む 虚子

香煙に心を残し墓参り 虚子

墓参して直ちに海に浮びけり 虚子

石鎚の嶮に廂す月の庵 風生

秋も松青し子規虚子ここに生れ 青邨

咲けり古郷波郷の邑かすむ 秋櫻子

松山は野菊多きや然よ今こそ 草田男

汝が故郷とく見よとてや西日展ぶ 草田男

遺骨の窓過ぎゆく団扇と国言葉 草田男

七夕色紙松山夜風は更けてから 草田男

夏埃立ちては故郷の地へ落つる 草田男

ゆくりなく盆の果て日の子規に詣づ 草田男

子規の墓西日小学校舎越 草田男

城山が透く法師蝉の声の網 三鬼

勿忘草わかものの墓標ばかりなり 波郷

松の蕊霽月逝いて女ばかり 波郷

松山平らか歩きつつ食う柿いちじく 三鬼