和歌と俳句

島原

白壁や朱欒一樹の影あまり 秋櫻子

竹削ぎし厨子の涼しや納戸佛 秋櫻子

野の幸の蚕豆かとも納戸佛 秋櫻子

蓮薹に立つも麦秋の聖マリア 秋櫻子

黴びたまひ何抱く石のマリア像 秋櫻子

雨蛙告ぐるな邪宗念持佛 秋櫻子

雲仙の薫風入れよ鯛茶漬 秋櫻子

天草も見えて船来るアマリリス 秋櫻子

遠き灯は島原城か蛍狩 秋櫻子

浪青し絵踏行かせし渡守 汀女

雲仙岳

唾のめば喉に音あり草いきれ 占魚

老鶯や樹々にうづもる普賢岳 占魚

山さけてくだけ飛び散り島若葉 虚子

妙見岳雲きそひ騰り時鳥 秋櫻子

野馬しづか吹き来る霧に尾を翻し 多佳子

松蝉や火口真白き照り返し 汀女

全山に移るつつじをうたがはず 汀女

ふつふつと日傘のひまに泥地獄 汀女

原城跡

蓼枯れぬ天使の翼折れし如 秋櫻子

甘藷掘りしあとはむかしの土塁かも 秋櫻子

はたはたの残れど飛べる音もなし 秋櫻子

対の花瓶一つ野菊を挿せるのみ 秋櫻子