和歌と俳句

皆吉爽雨

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芭蕉葉にひたとひた鳴くのあり

初蚊帳のこごしき旅寝はじまりぬ

いただきに村のおくつき棚田植う

裾浸す茶山やさしみ田を植うる

茶山また茶の木を正し田植済む

夕雨の田植のその手早め見ゆ

品川の潮さび神輿海士が組む

磴のぼるほどに汐の香夏まつり

神鏡におどる街あり神輿すぐ

老禰宜の老馬にそびえ渡御すすむ

ひしひしと子供神輿の手よ足よ

禅林の森を若竹抽きて見ゆ

若竹のいま枝々を噴くところ

新樹一戸と武蔵野につづく

新茶買ふ今宵の料に旅づとに

老の手のきほひ傾け新茶くむ

旅立の前の養ひ新茶くむ

意のままに汲めよと新茶古茶の壺

緑陰の読書の閉ぢて黒表紙

初扇ひらいて旅のとある橋

繕ひし青竹にこそ簗怒る

バス止る窓へ村童草矢うつ

瀬ひびきの中に大蚊帳吊りあぐる

カンバスに枇杷の絵枇杷は卓に朽ち

もて朝の戸を打ち旅もどり