鵜舟くる火明りの峰をかさねつつ
枇杷をもぐ遠州灘は空に鳴り
激しゐる蟻地獄王あらはにも
蟻に指やりて地獄をのがれしむ
山川の泳ぎの声の峰つたふ
濃きあとのあはきも新茶喫しけり
苺置き辞書おき子の名選ぶなり
日傘閉づ大山門に侏儒となり
河鹿聞く夕宇治橋に水匂ひ
新茶くむ茶山と谷をへだつ居に
鹿の子あり遠まなざしに立ちかしぎ
鹿の子をり耳立てし影背にながれ
二人植う山田二人のいま昼餉
朝茶のむ草刈もどり縁に見ゆ
冷房のかつ雪嶺の絵の前に
牡丹切るあとをただちに埋むる葉
新茶くむしづく配りに十余客
もろ肩に錣重畳武具かざる
一ぐりの太刀は緒を解き武具飾る
空にふと蛾を追ふ雀夏至夕べ
筒鳥の二声づつの峰越そなる
霧去りて朴残花なしほととぎす
ただようてあまた礎石と汗人と
菜殻火の立ちしふところこそ真紅