和歌と俳句

皆吉爽雨

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園にして木々に雲ふれ梅雨夕べ

踏みゆらぐものに厨子あり黴の宿

病葉の黄にちり朱に散りかかり

口噤ぐあまたの莟芥子の昼

アトリエの床に芥子散る淋漓たり

わが枷によろこびもどる牛に蚊火

養生の懈怠は蠅も打たずあり

碑に毛蟲城址荒るると言はなくに

雷雨くるすいれん見ればとく閉ざし

鵜篝の錦帯橋を天に染め

夕焼濃しとびとどまりし一鳥に

葉疊に牡丹は帰しぬ更衣

病愁を捨てんと更へて絣濃し

木々と籠に交はせる鳥語明易き

地上よりしそめし鳥語明易き

おろさるる激つただ中囮鮎

竿先の消えてうちのべ掛くる

礎と鹿の子と鹿のたむろ中

鹿の子ゆく親を追ひ顔待ち顔に

大駈りしては鹿の子の親に添ふ

鹿の子の耳掻くひづめよよと上げ

白秋の詩碑のからたち垣茂り

緑蔭の詩碑なり文字を青く彫る

詩碑はその母校の前の薫風

緑蔭のもろ根のしかと地にしづみ