夏萩の花のともしく夕すだれ
ふるさとへ来てうつしみの夏炉擁す
墓掃いて穂麦の風にむせびけり
小さき蟻机の縁を二度めぐりぬ
睡蓮にぴりぴり雷の駈りけり
心澄めば怒濤ぞきこゆ夏至の雨
雲悠かなれや五月の蝉の声
穂麦原日は光輪を懸けにけり
籠蛍ほのに照らせる薔薇白し
禁煙す夏至の夕べのなど永き
浴衣着に篁風の澄めりけり
忍べとのらす御声のくらし蝉しぐれ
雹の音こころに昏く麦ありぬ
降りかけの雲慌し昼の蝉
蚊帳吊つて外気の冷えにまどろめり
葉かげの蛾見出づ夕風到りけり
夜は秋の風鈴鳴つて月いざよふ
うつつ寝の妻をあはれむ夜の秋
頼めなき妻の命よ死蛾見出づ
雷とどろ睡蓮は閉ぢ終んぬる
懶しやたわたわ沈む梅雨の蝶
黒南風や栗の花紐垂りしづる
炎天の蝶黄塵に吹かれけり