ひとへもの径の麦に刺されたり
青い蚊の髭もつてゐてつままるる
こんこんと水は流れて花菖蒲
卯の花の夕べの道の谷へ落つ
暗きより浪寄せて来る浜納涼
月涼し吹かれて雲のとどまらず
山の月雨なき麦を照らしけり
行水や月に吹かるるあばら骨
暮れゆくや海光荒き穂麦原
えにしだの夕べは白き別れかな
春蝉の声引き潮も音もなく
山蝉やかちりかちりと竹を伐る
するが野や大きな富士が麦の上
浪の音島山の麦熟れにけり
照り雲や那谷の巌々白きさへ
梅の実の二つ三つほど家かげかな
月見草別れてのちの山霧は
夏羽織着て下町へ妻とかな
浅草の鰻をたべて暑かりし
お祭の店さきの西日となりぬ
戻り梅雨寝てゐて肩を凝らしけり
牡丹見てをり天日のくらくなる
筍に嵯峨の山辺は曇りけり
夜みじかき枕に落つる山の声