子が走せて帰る五月の昼の路次
うなゐ髪五月の風に吹き分れ
煙立つ墓原ありて野は五月
鳶の羽の松に懸れる五月かな
うつすらとからかみ青き五月かな
歳時記を愛して夏に入りゆけり
アカシヤのもとに梢の花も落つ
花咲きて落つアカシヤの樹のまはり
眼正しく麦の穂立ちの中進む
機関区を過ぎ来し道が麦の道
麦秋や葉書一枚野を流る
麦秋や軌道茜にいろづきて
野路行けば戻りつぐなり麦車
麦車光る馬鍬をのせゆけり
麦扱きや娘ひとりが箕をかざす
麦埃軟らかくして道に踏む
夢といふ一字揚げし炉の名残
年どしの一笊の梅岩に干す
子の弄る蟹をことしの見はじめに
わが影の身を起したる蚊帳の裡
早乙女の裾を下して羞ぢらへり
樹を攀づる蟹や鋏を携へて
歩を進めがたしや天地夕焼けて