和歌と俳句

原 石鼎

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霍乱のさめたる父や蚊帳の中

霍乱さめし手のほとりなる扇かな

出雲路は桑の月夜にほととぎす

道へ出て浴衣白さやほととぎす

世は地獄よしはらすずめほととぎす

夏帽や我を憎む人憎まぬ人

羽抜鶏梧桐の風を怖れけり

磐石に垂れて小さき簾かな

鰹木に藤房垂るる青田かな

ゆづり葉に一線の朱や雲の峰

迅雷やおそろしきまで草静か

迅雷や天つる蔓に色もなし

桶のもの皆光らせあふつ日除かな

草に置けば笠静かなる清水かな

午寝茣蓙かかへて今日も鐘楼へ

いつの間に壁に向きゐし午寝かな

頤に雫して泳ぎ冷えし子上りけり

木蔭より泳ぎ出し子よ流されな

汚れたる手拭もちて泳ぎかな

青柿の落ちて亀裂や草の中

桶の茄子ことごとく水をはじきけり

葛水に映る空なき簾かな

葛水に雷雲杳と起りけり

棕梠の根のやけつく石に蟻速し

乳児の汗を穿つ恐ろし蠅の嘴