和歌と俳句

原 石鼎

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初夏の近江に比叡の面哉

雨空へ雀とんだる牡丹

ぎざぎざの葉に雨一つ芥子坊主

紅芥子に薄き光りや風の中

地を這ふて曲る茎あり芥子坊主

麦の穂をすてて大きな眼に涙

針長き麦の穂抜いて吹いてみる

麦の穂の曲つた針の長さかな

高々と咲いて白さや杜若

六月や白雲色を磨ぎすまし

紫陽花の白とは云へど移る色

日の下や紫陽花濃くも垂れ籠る

我庵の黄ばら見に来よ花盛り

泣きながら噛むハーモニカ梅雨の闇

消え踊る赤いしやツぽや梅雨の夢

のけぞりに羽ひろげ堕ちぬ梅雨の虫

一と夜さの梅雨ざめごころほととぎす

梅天や筍竹にならんとす

流れ来るものに波紋は五月河

堤へ上る松火赤き出水かな

簗解くやどつと流るる物のあり

葉の雫風におくれて蝸牛

あほむけに蝸牛這うて蕗の中

葉のうらへでで虫角をはりにけり

夕立の奥の枝這ふ蝸牛