和歌と俳句

原 石鼎

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蝸牛は小さし葵は花赤し

でで虫の上とぶ蠅にくらさあり

蝸牛に寺の紫幕のはろばろし

池へまで庭の平らや夜々の蟇

蟇二匹つづいて這ふや紫蘇の中

青天へ投げて雫くや苗くばり

小松山越ゆる火の穂に のこころ

二つの燈明さちがふにの心

籠のみなあるきでし嵐かな

葉に這うて翅明かや細蛍

雨を避けて火あきらかや飛ぶ蛍

庭闇の芥子に心や蛍とぶ

沼神の老いやさらぼひ菱の花

夏の菱漏る日奈落の茎を這ふ

夏の菱の一葉黄にて重れり

蜘蛛まるく葵の花を這うて落つ

庭一杯の苔や木賊に蟻上る

昼寝僧の肩に沈み裾へ浮く蚊かな

香煙のほとりに浮きし昼蚊哉

白蚊帳にかすみて寝れば我ほとけ

南風や薔薇吹きあげて塀の内

南風や棟に見えつつ沈む雲

南風や屋根に見えつつ雲沈む

葉のかげの蔓に見えゐるかな

若竹を撓めて蛇や舌赤し