潮満ちきつてなくはひぐらし
茄子もいできてぎしぎし洗ふ
朝顔の白が咲きつづくわりなし
蛙の子がふえたこと地べたのぬくとさ
船乗りと山の温泉に来て雨をきいてる
あらしの闇を見つめるわが眼が灯もる
海のあけくれのなんにもない部屋
銅銭ばかりかぞへて夕べ事足りて居る
夕べひよいと出た一本足の雀よ
たばこが消えて居る淋しさをなげすてる
空暗く垂れ大きな蟻が畳をはつてる
蚊帳の釣手を高くして僧と二人寝る
蟻を殺す殺すつぎから出てくる
雨の幾日かつづき雀と見てゐる
友の夏帽が新らしい海に行かうか
写真うつしたきりで夕風にわかれてしまつた
血がにじむ手で泳ぎ出た草原
昼の蚊たたいて古新聞よんで
人をそしる心をすて豆の皮むく
はかなさは燈明の油が煮える