和歌と俳句

蜻蛉

晶子
青鈍も代赭も濡れし秋雨の小き庭の上行くとんぼ

動物園にも連れて行く日なく夕空あきつ 碧梧桐

胡蘿に尾羽うちしづむとんぼかな 蛇笏

蜻蛉にあるけば出でぬ雑司ヶ谷 かな女

静かさや蜻蛉とまる火消壺 石鼎

消炭の箕の蜻蛉のとまる影 石鼎

露草に黒蜻蛉翅開く時を見ぬ 石鼎

清流に黒蜻蛉の羽や神尊と 石鼎

干草を掻けば青さや山蜻蛉 櫻坡子

泣きし子の頬の光りやとぶ蜻蛉 汀女

汲まんとする泉をうちて夕蜻蛉 蛇笏

屋根石に四山濃くすむ蜻蛉かな 久女

夕日の竿にならんでとんぼうつつなき 山頭火

お日様かたむきとんぼの眼玉がひかるぞい 山頭火

蜻蛉釣にまじりて一人家恋し 風生

麻刈りし畑ひろびろと蜻蛉釣 風生

稗草の穂に蜻蛉や霧の中 石鼎

晶子
わが部屋へ山の蔭より寄せてきぬ赤きあきつの疎らなる群

松の上に蜻蛉高き日和かな 風生

松たかくながれ返りて夕とんぼ 蛇笏

十方の仏見え居る蜻蛉かな 喜舟

万葉に読人しらず赤蜻蛉 喜舟

わが町へ流れ来にけり赤蜻蛉 喜舟

晶子
一時は目に見しものを蜻蛉のあるかなきかを知らぬ果敢なさ

蜻蛉のさらさら流れ止まらず 虚子

赤とんぼ夥しさの首塚ありけり 放哉

山風や棚田のやんま見えて消ゆ 蛇笏

干し残るゆふべの藻屑尾の白き蜻蛉のゆきぬ 碧梧桐

蜻蛉の舞ひ澄む真向横向きに 泊雲

蜻蛉やいざりながらに鱗雲 花蓑

とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた 放哉

墓原のまばゆく晴れし蜻蛉かな 万太郎

硝子戸に風ふきつのる蜻蛉かな 万太郎

朝顔にとまりてねむる蜻蛉かな 石鼎