和歌と俳句

尾崎放哉

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山寺灯されて見て通る

昼寝の足のうらが見えてゐる訪ふ

宵のくちなしの花を嗅いで君に見せる

蜘蛛がとんぼをとつた軒の下で住んでる

逢ひに来たその顔が風呂を焚いてゐた

旧暦の節句の鯉がをどつて居る

眼の前魚がとんで見せるの夕陽に来て居る

町の盆灯ろうたくさん見て船に乗る

花火があがる空の方が町だよ

木槿の花がおしまひになつて風吹く

あけがたとろりとした時の夢であつたよ

おそい月が町からしめ出されてゐる

の葉押しわけて出て咲いた花の朝だ

切られる花を病人見てゐる

お祭り赤ン坊寝させてゐる

陽が出る前の濡れた烏とんでる

木槿一日うなづいて居て暮れた

お遍路木槿の花をほめる杖つく

白い夾竹桃の花の下まいばん掃く

病人花活けるほどになりし

朝靄豚が出てくる人が出てくる

迷つて来たまんまの犬で居る

すでに秋の山山となり机に迫り来

久し振りの雨の雨だれの音

都のはやりうたうたつてのあめ売り

障子あけて置く海も暮れきる

畳を歩く雀の足音を知つて居る

あらしがすつかり青空にしてしまつた

淋しきままに熱さめて居り

淋しい寝る本がない

月夜風ある一人咳して

お粥煮えてくる音の鍋ぶた

一つ二つ見てたづぬる家

爪切つたゆびが十本ある

鳳仙花の実をはねさせて見ても淋しい

秋日さす石の上に背の児を下ろす

入れものが無い両手で受ける

朝月嵐となる