和歌と俳句

尾崎放哉

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粉炭もたいなくほこほこおこして

妹と夫婦めく秋草

小さい火鉢でこの冬を越さうとする

心をまとめる鉛筆とがらす

仏にひまをもらつて洗濯してゐる

大根が太つて来た朝ばん仏のお守りする

ただ風ばかり吹く日の雑念

二人よつて狐がばかす話をしてる

うそをついたやうな昼の月がある

酔のさめかけの星が出てゐる

考へ事して橋渡りきる

おほらかに鶏なきて海空から晴れる

中庭の落葉となり部屋部屋のスリッパ

山に家をくつつけて 咲かせてる

しも肥わが肩の骨にかつぐ

板じきに夕餉の両ひざをそろへる

わがからだ焚火にうらおもてあぶる

傘干して傘のかげある一日

こんなよい月を一人で見て寝る

便所の落書が秋となり居る

竹の葉さやさや人恋しくて居る

めしたべにおりるわが足音

猿を鎖につないで冬となる茶店

落葉たく煙の中の顔である

晩の煙りを出して居る古い窓だ

仏体にほられて石ありにけり

足音一つ来る小供共の足音

大根洗ひの手をかりに来られる

上天気の顔ひとつ置いてお堂

打ちそこねた釘が首を曲げた

烏がだまつてとんで行つた

尻からげして葱ぬいて居る

しぐれますと尼僧にあいさつされて居る

水たまりが光るひよろりと夕風

針に糸を通しあへず青空を見る

糸瓜が笑つたやうな円右が死んだか

すでにすつ裸の柿の木に物干す

冬帽かぶつてだまりこくつて居る

紅葉あかるく手紙よむによし

襟巻長くたれ橋にかかるすでに凍てたり

公園冬の小径いづこへともなくある

大地の苔の人間が帽子をかぶる

葱がよく出来てとつぷり暮れた家ある

お盆にのせて椎の実出されふるさと

姉妹椎の実たべて東京の雑誌よんでる

かへす傘又かりてかへる夕べの同じ道である

赤ン坊のなきごゑがする小さい庭を掃いてる

雀のあたたかさを握るはなしてやる

酒もうる煙草もうる店となじみになつた

灰の中から針一つ拾ひ出し話す人もなく