和歌と俳句

尾崎放哉

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蜜柑山の路のどこ迄も海とはなれず

土くれのやうに雀居り青草もなし

松の実ほつほつたべる燈下の児無き夫婦ぞ

四ツ手網おろされ夕の野面ひつそり

稲がかけてある野面に人をさがせども

何もかも死に尽くしたる野面に我が足音

氷穿ちては釣の糸深々とたらす

氷れる路に頭を下げて引かるる馬よ

山ずそ親しく雪解水流れそめたり

海苔をあぶりては東京遠く来た顔ばかり

長雨あまる小窓で杏落つるばかり

昼火事の煙遠くへ冬木つらなる

焼跡はるかなる橋を淋しく見通し

春日の中に泥厚く塗りて家つくる

かぎりなく煙吐き散らし風やまぬ煙突

母の日ぬくとくさやゑんどう出そめて

夏帽新しく睡蓮に昼の風あり

犬が覗いて行く垣根に何事もない昼

わが胸からとつた黄色い水がフラスコで鳴る

ここに死にかけた病人が居り演習の銃音をきく

遠く船見付けたる甲板の昼を人無く