鹿二つ立ちて淡しや月の丘
草へ出て鹿かげの如し風の月
鹿の影をりをり濃さや月に歩む
鹿動けば秋日も動く静かかな
秣切るや灯をよろこべる夜長牛
秋雨や紫苑傾く水の上
さびしさに虫啼き募る野分かな
黍巻いて朝顔咲きし高さかな
秋風や屋根の上行く杣が道
秋天をとんで光りし蟷螂かな
秋風に蟷螂羽をひろげけり
堰越ゆる水に日高し今朝の秋
堰落して暮るゝ大河や雁の竿
積材に月の明さや峠茶屋
今朝露の藪におびえし狢かな
破れ傘ふりたて行くや秋の雨
秋雨や雫つらねて松の枝
かつぐ稲のさやげる音や秋の暮
稲架の間に灯る家や秋のくれ
縦横にぬれ伏す稲や秋の雨
稲架出来て日々に濃まさる紅葉かな
土間に積みし芋にぬぎあり泥草履
蓑鍬に日和の土間や芋かはく
幕の朱に蟷螂とまる芒かな
松の根の遠く走れる真萩かな