和歌と俳句

原 石鼎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

鹿二つ立ちて淡しや月の丘

草へ出て鹿かげの如し風の月

鹿の影をりをり濃さや月に歩む

鹿動けば秋日も動く静かかな

秣切るや灯をよろこべる夜長牛

秋雨や紫苑傾く水の上

さびしさに虫啼き募る野分かな

黍巻いて朝顔咲きし高さかな

秋風や屋根の上行く杣が道

秋天をとんで光りし蟷螂かな

秋風に蟷螂羽をひろげけり

堰越ゆる水に日高し今朝の秋

堰落して暮るゝ大河や雁の竿

積材にの明さや峠茶屋

今朝露の藪におびえし狢かな

破れ傘ふりたて行くや秋の雨

秋雨や雫つらねて松の枝

かつぐ稲のさやげる音や秋の暮

稲架の間に灯る家や秋のくれ

縦横にぬれ伏す稲や秋の雨

稲架出来て日々に濃まさる紅葉かな

土間に積みしにぬぎあり泥草履

蓑鍬に日和の土間や芋かはく

幕の朱に蟷螂とまる芒かな

松の根の遠く走れる真萩かな