和歌と俳句

原 石鼎

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三笠山かなかな啼いてなつかしき

朝顔の裂けてゆゆしや濃紫

濁り江に映りて芋の高葉かな

縁にたつ人の曠衣や入営日

朝日今葉に透き出づる芭蕉かな

葛の中ひらいて高し芒の穂

日かげりて愁俄かや草の秋

秋燕の目に恐ろしき曼珠沙華

艪かつげば艪のかげ壁に秋の海

傘干して蔭になる葉や秋海棠

蟷螂の色に全き大気かな

蟷螂青く燈に来てやすき野分かな

蟷螂の子皆一色や秋の風

石の上に滝たゞ落ちて秋の暮

頂上へ道二すぢや秋の山

秋風や牛現はれし崖の上

草の井に釣瓶あかあかと秋の風

包み来し柿の風呂敷の紫よ

柿噛んで種ほいとなげ杣の秋

の蔕猿の白歯をこぼれけり

岩畳をながるゝ水に紅葉かな

の艶にうすき緑や天紺碧

剪るや花花に沈みて離れぬ

絣着ていつまで老いん破芭蕉

瑠璃鳥の瑠璃隠れたる紅葉かな