和歌と俳句

原 石鼎

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蔓踏んで一山の動きけり

橋に来て谷の深さや月の虫

月見るや山冷到る僧の前

さすや伐木乱雑に山の窪

馬盥の底穿くばかり山の月

葛掘りし家のほとりや山の

杣が子の摘みあつめゐる曼珠沙華

穂黍まだ青きに早も山の露

秬引きし谷の広さや月の虫

粟刈りて淋しきものや杭の跡

鉄砲を掛けて鴨居や杣が秋

秋の日や猫渡り居る谷の橋

秋天に聳ゆる峰の近さかな

秋風や猿柿に来る山鴉

秋風をわづかに染めぬ烏瓜

深吉野に一とせすぎぬ秋の暮

をかしさはがらんと鳴し猪威

山国のものものしさよ猪威

峯越衆に火貸すなかばも打つ

石段を下れば暮れん荻の寺

船と船つなげる綱に野分かな

親船の艀そなへし野分かな

筑紫路はあれちのぎくに野分かな

秋雨や蜘蛛とぢて伏す枯れ葎

蘆の中雁色もなく日かげりぬ

あら波や或は低き雁の列

船で着く行李持つ我れに秋日かな